下の親知らずを抜いた後に「下唇やあごがしびれる」?その原因や治療法を解説
2026/10/10
こんにちは。向ヶ丘遊園で開院しております、近藤歯科・院長の近藤です。
下の親知らずを抜歯するにあたり「神経に近いからしびれが出るリスクがある」と説明を受けたことがある方もいるのではないでしょうか。
下の親知らずは、下顎の骨の中を通る太い神経と近い位置にあり、抜歯の際の力や刺激によって、下唇やあご、歯ぐき、舌などに一時的なしびれや麻痺が生じる場合があります。
今回は、下の親知らずと神経の位置関係をはじめ、しびれが生じる要因や症状の現れ方、治療法などを解説します。
下の親知らずと神経の位置関係
下の親知らずの抜歯において、なぜしびれのリスクが考慮されるのでしょうか。それには、下顎の骨の中を通る神経が関係しています。
下顎の骨の内部には、「下顎管(かがくかん)」と呼ばれるトンネル状の管があります。この下顎管の中には、下歯槽神経(かしそうしんけい)とともに、下歯槽動脈や下歯槽静脈が走っています。
下歯槽神経は、脳から伸びる三叉神経の第3枝である下顎神経から分岐した、感覚を司る神経です。下顎の歯や歯ぐき、下唇、あごの皮膚や粘膜の感覚を、脳へ伝える役割を担っています。
歯根と神経の距離
下の親知らずは、下顎管のすぐ上または近接する位置に作られます。
歯根の長さや伸びる方向には個人差があり、親知らずの歯根の先端が下顎管に接しているケースや、下顎管と交差するように重なっているケースも珍しくありません。
このような配置にある場合、抜歯の際に歯を脱臼させたり、骨を切削したりする力が間接的に下顎管へ伝わり、神経に刺激が及ぶことがあります。
埋伏智歯(埋まっている親知らず)と神経リスク
歯ぐきやあごの骨の中に埋まっている親知らずを「埋伏智歯(まいふくちし)」と呼びます。
すべて骨の中に埋まっている「完全埋伏智歯」や、頭の一部だけが歯ぐきから覗いている「半埋伏智歯」などがあり、深く埋まっている親知らずほど、骨の深い位置を通る下顎管との距離が近くなる傾向があります。
また、歯を取り出すためには、周囲の骨を削ったり、歯を分割したりする手順が必要となります。そのため、処置に要する時間が長くなり、神経周辺への機械的刺激や圧力が増えるリスクがあります。
親知らず抜歯後に生じるしびれの原因と病態
抜歯後のしびれや麻痺は、どの神経がどのように影響を受けたかによって症状や経過が異なります。病態ごとの特徴と、それぞれの対処法や見通しを解説します。
下歯槽神経損傷(下唇・あごのしびれ)
抜歯の処置中に、下歯槽神経が直接的または間接的な刺激を受けたことで生じます。
神経の構造自体は保たれているものの物理的な圧迫や牽引によって伝達機能が一時的に低下している状態、神経の軸索(信号を送る線維)にダメージが及んでいる状態、まれではありますが神経が部分的に分断されている状態などが挙げられます。
現れる症状
下唇の半分からあごの先にかけての領域、および該当する側の歯ぐきの感覚が鈍くなります。「正座の後のようなジンジンとしたしびれ」「触られている感覚はあるが膜を隔てているような感じ」「熱さや冷たさがわかりにくい」といった感覚の異常が生じます。
運動を支配する神経ではないため、口が曲がったり動きにくくなったりすることはありませんが、感覚の低下によって口元に違和感を抱きやすくなります。
治療法と見通し
神経の構造が維持されている軽度の圧迫や牽引であれば、神経の修復能力によって数週間から3か月程度で改善に向かうケースが多く見られます。
初期段階では、神経の再生を補助する薬剤の服用や、血流を促す処置を実施します。損傷が深い場合は6か月以上の長期間にわたる経過観察と継続的なケアが必要になることがあります。
舌神経損傷(舌のしびれ・味覚の変化)
下の親知らずの内側の骨のすぐ近くには、「舌神経」と呼ばれる神経が走っています。舌神経は舌の前方3分の2の感覚と味覚を支配している神経です。
親知らずの抜歯で舌側の歯ぐきを切開したり、器具で組織を保持・保護したりする際に、舌神経へ過度の圧迫や伸展が加わると、しびれが発生することがあります。
現れる症状
舌の先端や側面にピリピリとしたしびれ感や、感覚の鈍化が生じます。
また、舌神経には味覚の信号を伝える神経線維も含まれているため、「食べ物の味が感じにくくなる」「左右で味の感じ方が異なる」といった味覚の違和感が生じる場合もあります。
治療法と見通し
多くは圧迫や伸展による一時的な症状であり、時間の経過とともに自然に改善します。
治療としては、下歯槽神経と同様にビタミンB12製剤の投与やレーザー照射、消炎薬の処方などが行われます。舌の感覚異常は食事や会話時の違和感につながりやすいため、舌を誤って噛まないよう注意しながら、定期的な感覚検査により経過を観察していきます。
血腫や周囲組織の腫れによる一時的な神経圧迫
親知らずを抜いた後の傷口周辺では、生体反応として炎症や出血が起こります。
あごの骨の内部や周囲の組織に血液が溜まって血腫ができたり、組織が腫れたりすると、その圧力が下顎管を通る下歯槽神経を外側から圧迫することがあります。
現れる症状
抜歯直後よりも、腫れがピークを迎える抜歯後2〜3日目にしびれ感が強く現れるのが特徴です。腫れが引くにつれて圧力が下がり、症状が軽減していきます。
治療法と見通し
組織の腫れや血腫が原因である場合、炎症が鎮まるにつれて神経への圧迫も和らぐため、数週間程度でしびれもなくなっていきます。抗生剤の服用をきちんと行い、局所の安静を保つようにしましょう。
局所麻酔(下顎孔伝達麻酔)による影響
下の親知らずの抜歯では、処置中の痛みを軽減するために、あごの奥にある神経の合流点付近に麻酔薬を効かせることがあります。
この際、注射針の神経表面への接触や、麻酔薬の刺激によって、神経線維に一時的な伝達障害が生じることがあります。
現れる症状
麻酔が切れた後も下唇やあごの先、舌などに、しびれや感覚の鈍さが残ります。
治療法と見通し
麻酔針の接触による影響は軽微であることが多く、ほとんどの場合において数日から数週間で自然に感覚が戻ります。
ただし、麻酔が切れる予定の時間を過ぎても唇や舌の感覚が全く戻らない場合は、担当の歯科医師へ連絡し、状態を確認しておいてもらいましょう。
親知らず抜歯後のしびれに対する治療法
経過観察と日常ケア
神経の修復には相応の時間を要するため、焦らずに経過を観察することがしびれに対する治療の基本です。
定期的に通院していただき、細い針や綿棒を用いて皮膚や粘膜を触り、感覚の伝わり方や範囲の変化を記録します。経過を数値や範囲として客観的に評価し、回復の兆候を捉えます。
薬物療法(ビタミンB12製剤・炎症を抑える薬)
神経の代謝や修復を補助するために薬物療法を行います。
ビタミンB12製剤は、傷ついた神経線維の修復を助けるお薬です。
術後初期に神経周辺の強い腫れや炎症が疑われる場合は、炎症を速やかに鎮めて神経への圧迫を減らすために、消炎酵素剤・ステロイド製剤が短期間投与されることもあります。
低出力レーザー治療および低周波刺激療法
低出力レーザー治療は、特定波長の光エネルギーをあごの皮膚表面や口内粘膜に照射する処置です。組織の血流改善や神経再生の促進を図ります。
低周波電気刺激療法では、皮膚表面から微弱な電流を流すことで末梢の血行を促し、感覚受容器を刺激して機能の活性化を目指します。
温熱療法とマッサージによる血流改善
腫れや痛みが強い時期を過ぎた後は、患部周辺を温める温熱療法が行われます。
あごから首元にかけて蒸しタオルなどで優しく温めることで、血管が拡張して血液が巡りやすくなります。血液の流れが良好になることで、神経の修復に必要な酸素や栄養素が効率よく運ばれ、蓄積した老廃物の排出も促されます。
しびれがある期間中の日常生活の注意点
しびれが生じている期間は、感覚が鈍くなっていることによる二次的なけがを防ぐことが大切です。
口内の感触低下に伴うけが・火傷の防止
麻痺やしびれによって口内の感覚が低下している時期は、食事においていくつか気を付けたいポイントがあります。
まず気をつけたいのが、熱いスープや飲み物を口にした際の火傷です。感覚が鈍っていると温度を感じにくく、知らず知らずのうちに粘膜を傷つけてしまう恐れがあります。
また、噛む際にも注意が必要です。麻痺がある側で噛もうとすると、誤って下唇や頬の内側の粘膜、舌を強く噛んでしまうことがあります。
食事をする際は一口分を小さめに取り、感覚が正常な側の歯を使ってゆっくりと噛むよう心がけてください。
精神的なストレスの軽減
しびれという症状は目に見えにくく、本人にしかわからない違和感であるため、「ずっとこのままだったらどうしよう」という焦りや不安から精神的なストレスが大きくなりがちです。
「先月よりも触った感じが分かる」「しびれている範囲が少し狭くなった」といった細かな変化を日記やメモに記録しておくと、回復のプロセスを客観的に実感しやすくなり、不安の軽減につながります。
セカンドオピニオンの活用
現在受けている経過観察や治療方針に対して疑問や不安がある場合は、別の歯科医師や歯科口腔外科にセカンドオピニオンを求めることも患者さんの大切な権利です。
別の視点から画像データや症状の経過を診断してもらうことで、現状に対する納得感が得られたり、新たなアプローチ方法が見つかったりすることがあります。
まとめ
下の親知らずを抜いた後に生じる下唇やあご、舌のしびれは、解剖学的に親知らずと神経が近い位置にあることで起こる合併症の一つです。
多くは一時的な神経の圧迫や牽引によるものであり、経過観察や薬物療法、物理療法を行うことで、時間をかけて回復に向かっていきます。
監修医・医院情報
監修医:近藤 猛(医療法人社団 新芽会 近藤歯科 院長)
経歴
日本歯科大学卒
医療法人社団 慈皓会 波多野歯科 勤務後
医療法人社団 新芽会 近藤歯科 院長就任
南カリフォルニア大学客員研究員
鶴見大学口腔顎顔面インプラント科専攻生
所属学会
日本口腔インプラント学会
日本歯内療法学会
日本歯科医師会
MAXIS Implant Institute Advance/Basic course 修了
University of Pennsylvania Microsurgery Course 修了
Santa Barbara Dr.Ruddle Advance/Basic Endodontics course 修了
内藤正裕 補綴咬合Ⅰ Ⅱコース修了
医療法人社団 新芽会 近藤歯科:https://kondoh-shika.or.jp/
〒214-0014 川崎市多摩区登戸2043 小田急マルシェ2-3F
電話:044-932-0418
交通アクセス
小田急電鉄小田原線 向ヶ丘遊園駅 徒歩0分

