MTAセメントで後悔するケースとは?適応症・成功率と、従来の治療との違い
こんにちは。向ヶ丘遊園で開院しております、近藤歯科・院長の近藤です。
近年、SNSやインターネットの普及により「MTAセメントという薬がある」「これを使えば神経を残せる」という情報が広く知られるようになりました。
しかし一方で、当院には、他院でMTAセメントの治療を受けたものの、「結局痛みが引かなかった」「高い費用を払ったのに後悔している」と駆け込んでこられる患者さまが少なくありません。
なぜ、素晴らしい材料であるはずのMTAセメントで「後悔」が生まれてしまうのでしょうか?
本記事では、MTAセメントの実力から、具体的な適応症、治療の成功率、そして後悔しないために知っておくべき「成功の条件」について解説します。
MTAセメントとは?なぜ「歯を残す救世主」と呼ばれるのか
MTAセメント(Mineral Trioxide Aggregate)は、1990年代にアメリカのロマリンダ大学で開発された歯科用セメントです。
主成分はケイ酸カルシウムであり、従来の歯科材料とは一線を画す「驚異的な親水性と生体親和性(体に馴染む性質)」を持っています。
これまでの歯科材料は、水分(血液や唾液)があると接着力が落ちたり、劣化したりするのが常識でした。
しかし、MTAセメントは水分がある環境下でしっかりと固まり、さらに強固な封鎖性(隙間をなくす力)を発揮するという特殊な性質を持っています。
MTAセメントが持つ4つのメリット
① 強固な封鎖性(ズレない・隙間を作らない)
固まる際にわずかに膨張するため、微細な隙間(マイクロリーケージ)を完全にシャットアウトします。
これにより、治療後に細菌が再び侵入するのを強力に防ぎます。
② 高い強アルカリ性による「殺菌効果」
MTAセメントは硬化する過程で水酸化カルシウムを放出し、pH12.5という強いアルカリ性を示します。
ほとんどの虫歯菌や歯周病菌はこの環境下で生き残ることができないため、患部を徹底的に殺菌・消毒できます。
③ 硬組織の形成を促す(歯を再生させる)
生体親和性が非常に高いため、生体が「異物」として排除しようとしません。
それどころか、歯の神経(歯髄)に触れると、神経を保護するための新しい象牙質(第二象牙質/硬組織)の形成を促す働きがあります。
④ 優れた安全性を誇る生体材料
細胞に対する毒性が極めて低く、歯の根の先端からあふれて骨に触れたとしても、組織の治癒を妨げず、むしろ周囲の骨や歯根膜の再生を助けることが分かっています。
このように、MTAセメントは「殺菌しながら」「隙間なく密閉し」「組織の再生を促す」という、まさに歯の保存治療における救世主なのです。
【徹底解説】MTAセメントはどのような時に使われるか?
MTAセメントはすべての治療に使える万能薬ではありませんが、「これまでは抜歯、あるいは神経を抜くしかなかったケース」において、絶大な効果を発揮します。
① 覆髄(ふくずい)治療(直接覆髄・間接覆髄)
深い虫歯から歯の神経(歯髄)を守る
虫歯が非常に深く、虫歯菌に侵された部分をきれいに削り取っていくと、歯の神経(歯髄)が露出してしまうことがあります(これを「露髄(ろずい)」と呼びます)。
従来の治療
神経が露出すると、感染のリスクや将来的な痛みを避けるために、神経をすべて抜いてしまう治療(抜髄)が一般的でした。
MTAセメントを用いた治療
露出した神経の上に直接MTAセメントを塗布(直接覆髄)することで、高い殺菌力と封鎖性により神経を殺さずに保護し、健康な状態に維持することができます。
② 根管充填(こんかんじゅうてん)
根の先を完全に密閉し、再感染の確率を下げる
不幸にも神経が死んでしまった場合や、過去に根の治療をした場所が再感染してしまった場合に行うのが「根管治療(根の尊い治療)」です。
根の中をきれいに掃除したあと、最後にガッタパーチャというゴムのような材料を詰めるのが一般的ですが、根の形が複雑な場合、隙間ができやすいという欠点がありました。
MTAセメントを根管のなかに隙間なく緊密に充填(根管充填)することで、再感染の確率を下げることができます。
③ 穿孔(パーフォレーション)の修理
過去の治療で開いてしまった「歯の根の穴」を塞いて抜歯を回避する
「パーフォレーション」とは、過去の根管治療で器具が誤って根の壁を突き破ってしまったり、深い虫歯によって歯の根や床(またの部分)に穴が開いてしまったりした状態を指します。
ここに唾液や細菌が入り込むと、激しい痛みや膿胞(ウミの袋)の原因となり、以前であれば「即・抜歯」と診断されるケースがほとんどでした。
しかし、生体親和性の高いMTAセメントであれば、この開いてしまった穴を内側から安全に塞ぐ(リペアする)ことができ、歯を抜かずに残せる可能性が高まります。
④ 歯根端切除術(しこんたんせつじょじゅつ)での逆根管充填
外科的アプローチで歯の根の先を治療する
通常の根管治療ではどうしても治りきらない、根の先端の大きな膿の袋(歯根嚢胞)に対して行う外科手術です。
麻酔をして歯茎をめくり、骨を少し削って根の先端を直接数ミリ切除します。
その切除した根の断面の穴に対して、裏側からMTAセメントを詰めて(逆根管充填)完全に密閉します。
MTAセメントの「成功率」とエビデンス(科学的根拠)
では、MTAセメントを使った治療は、実際にどのくらいの確率で成功するのでしょうか。
国内外の著名な論文やデータをもとに、その「成功率」を客観的に見てみましょう。
深い虫歯で神経を残す治療(直接覆髄)の成功率
従来の歯科材料である「水酸化カルシウム製剤」と「MTAセメント」を比較した、非常に有名な研究データがあります。
データ1:直接覆髄における成功率の比較
MTAセメントを用いた場合:成功率 約85% 〜 93%
水酸化カルシウム製剤(従来)の場合:成功率 約60% 〜 68%
(出典:Hilton et al., "Comparison of CaOH and MTA for direct pulp capping", Journal of Dental Research, 2013 / Mente J, et al., "Treatment outcome of mineral trioxide aggregate in open apices", Journal of Endodontics, 2014)
この研究が示す通り、MTAセメントを使用することで、従来の方法よりも約20〜30%も高い確率で神経を残せることが実証されています。
積年の課題であった「数年後に結局神経が死んでしまう」というトラブルが、MTAの硬組織形成能(デンティンブリッジの形成)によって大幅に減少したのです。
歯の根に穴が開いたケース(パーフォレーション)の救済率
かつては「抜歯」の代名詞だったパーフォレーション(穿孔)の修理においても、高い成功率が報告されています。
データ2:MTAによるパーフォレーション修理の長期予後
MTAセメントで穴を塞いだ症例の成功率:約86%
(出典:Siew WL, et al., "Treatment outcome of repaired root perforations: a systematic review", Journal of Endodontics, 2015)
適切な殺菌とマイクロスコープ下での精密な充填を行えば、8割以上の確率で、一度は「抜歯」と言われた歯を救うことができるのです。
なぜ「後悔した」というケースが生まれるのか?MTAセメントの落とし穴
これほどまでに優れた実績を持つMTAセメントですが、冒頭でお話しした通り、「MTAセメントを使ったのに痛みが消えず、結局神経を抜くことになって後悔した」「費用が無駄になった」という患者さまがいらっしゃいます。
これには、明確な「理由」と「落とし穴」があります。
MTAセメントは「魔法の薬」ではなく、あくまで「優れた歯科材料」です。
以下のような状況では、どれほど高価な材料を使っても失敗してしまいます。
後悔の原因①:すでに神経の炎症(歯髄炎)が手遅れな状態だった
MTAセメントで神経を残せるのは、「神経に細菌は感染しているが、まだ神経自体が生きようとする可逆的な状態(回復可能な状態)」に限られます。
すでに夜も眠れないほどの激痛があったり、温かいもので激しく痛んだり、神経の大部分が細菌によって壊死(死んでしまう)しかけている「不可逆性歯髄炎」の状態では、MTAセメントを塗っても激しい痛みが続き、最終的には神経を取り除かなければならなくなります。
事前の正確な診断(臨床症状の把握や電気歯髄診断、CT検査など)を行わずに、「とりあえずMTAを塗れば治るだろう」と過信して治療を行うと、失敗して後悔を招きます。
後悔の原因②:ZOOやラバーダム防湿、マイクロスコープを使わずに治療した
ここが最も重要なポイントです。
MTAセメントの最大の敵は、治療中に侵入してくる「唾液」と「細菌」です。人間の唾液1滴のなかには、数億から数十億匹の細菌が存在しています。
もし、治療中に唾液がほんの少しでも神経の露出部に触れてしまったら、その時点でMTAセメントをいくら綺麗に塗っても、セメントの下で細菌が繁殖してしまいます。
また、肉眼での治療には限界があります。数ミリ、数ミクロンという微細な神経の露出や、取り残した虫歯を肉眼だけで完璧に見極めることは不可能です。
ラバーダムや「ZOO」で唾液を完全に遮断していない
マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)で拡大して見ていない
このような環境下で行われたMTA治療は、材料がどれほど良くても、高い確率で失敗(後悔)に終わります。
後悔の原因③:MTAセメントを充填した後の「最終的な被せ物」が雑だった
せっかくMTAセメントで神経を綺麗に保護しても、その上に行うプラスチックの詰め物(レジン)や被せ物(クラウン)の精度が低く、数ヶ月〜数年で隙間から二次虫歯(再感染)が発生してしまっては意味がありません。
MTAセメントという「土台の処置」だけでなく、その上に載せる「被せ物の精度(適合性)」まで一貫して精密でなければ、長期的な成功は望めません。
後悔の原因④:治療費が自費診療(保険適用外)であることの期待値とのギャップ
MTAセメントを用いた高精度な保存治療は、基本的に日本の公的医療保険が適用されない「自費診療(自由診療)」となります。
患者さまとしては「高い費用を払ったのだから、100%確実に治るはず」という高い期待を持って治療に臨まれます。
しかし、人間の体ですから、どれほど手を尽くしても成功率100%ということはあり得ません(先述の通り、世界的データでも約85〜93%です)。
事前の説明(インフォームドコンセント)が不足しており、「失敗するリスクもある」という納得がないまま治療を受けてしまうと、万が一神経が残せなかった際に「後悔」や「不信感」へと繋がってしまいます。
近藤歯科が実践する、MTAセメント治療の「成功の条件」
当院では、患者さまに「MTAセメントの治療をして本当に良かった」と心から満足していただけるよう、独自の厳しい基準と「成功のための条件」を設けて治療を行っています。
条件1:マイクロスコープによる「最大25倍」の視野での精密視認
当院のMTA治療は、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を使用して行います。
肉眼の最大25倍まで視野を拡大することで、虫歯に侵された組織と、残すべき健康な組織の境界線がくっきりと見えます。
また、神経がどれくらい出血しているか(神経の生命力・炎症の度合い)を微細に観察できるため、「本当にMTAセメントで神経が残せる状態かどうか」を極めて正確に見極めることができます。
条件2:ZOO/ラバーダム防湿の徹底による「無菌化コントロール」
当院では、MTAセメントを使用する際、原則として「ZOO」という吸引器や、ラバーダム防湿を徹底しています。
これにより、お口の中の細菌が患部に侵入しない「無菌室」のような状態を作り出し、MTAセメント本来の無菌封鎖性を発揮させます。
条件3:歯科用CTによる立体的な事前診断
レントゲン(2次元)だけでは分からない、歯の根の複雑な形や、パーフォレーション(穴)が開いている正確な位置、周囲の骨の溶け具合などを、歯科用CT(3次元立体画像)によって事前に徹底解析します。
あらかじめ敵の正体と位置を知ることで、迷いのない、確実なアプローチが可能になります。
条件4:CEREK(セレック)システム等を活用した高精度な上部構造
MTAセメントで保護した後の歯は、「セレック(CAD/CAMシステム)」などを活用し、隙間のほとんどない高精度なセラミックの詰め物・被せ物をスピーディーに製作・装着します。
入り口(MTAでの封鎖)から出口(セラミックでの密閉)までを完全に精密にコントロールすることで、長期にわたって再感染を防ぎます。
条件5:じっくり時間をかけた「丁寧なカウンセリング」と納得
私たちは、高い技術や最新の設備を誇るだけの冷たい医院ではありません。
一番大切にしているのは、「気軽に質問できる雰囲気」と「丁寧な説明」です。
治療を始める前に、現在の歯の状態、MTAセメントを用いるメリット、万が一神経が残せなかった場合のセカンドプラン、そして費用について、デジタルレントゲンやアニメーション、時にはマイクロスコープで撮影した実際の映像をお見せしながら、分かりやすくご説明します。
患者さまが「これなら安心して任せられる」と心から納得されてから、治療をスタートします。
まとめ:向ヶ丘遊園で「歯を残したい」とお悩みの方へ
MTAセメントは、正しく使えば「本来なら抜くはずだった歯」「残せないはずだった神経」を救い、一生物の財産に変えてくれる素晴らしい材料です。
しかし、その成功は材料の質だけで決まるのではありません。
術前の確かな診断力
マイクロスコープやラバーダム/ZOOといった徹底した無菌環境
そして、ドクターの丁寧な技術と患者さまへの誠実な説明
これらがすべて揃って初めて、最高のパフォーマンスを発揮します。
「他院で神経を抜くと言われたけれど、どうしても残したい」
「MTAセメントの治療に興味があるけれど、失敗して後悔したくない」
そんな不安を抱えている方は、ぜひ一度、向ヶ丘遊園の近藤歯科へご相談ください。
私たちは最新の設備を整え、皆さまの大切な歯を守るために、誠心誠意、丁寧にお答えすることをお約束いたします。
監修医・医院情報
監修医:近藤 猛(医療法人社団 新芽会 近藤歯科 院長)
経歴
日本歯科大学卒
医療法人社団 慈皓会 波多野歯科 勤務後
医療法人社団 新芽会 近藤歯科 院長就任
南カリフォルニア大学客員研究員
鶴見大学口腔顎顔面インプラント科専攻生
所属学会
日本口腔インプラント学会
日本歯内療法学会
日本歯科医師会
MAXIS Implant Institute Advance/Basic course 修了
University of Pennsylvania Microsurgery Course 修了
Santa Barbara Dr.Ruddle Advance/Basic Endodontics course 修了
内藤正裕 補綴咬合Ⅰ Ⅱコース修了
医療法人社団 新芽会 近藤歯科:https://kondoh-shika.or.jp/
〒214-0014 川崎市多摩区登戸2043 小田急マルシェ2-3F
電話:044-932-0418
交通アクセス
小田急電鉄小田原線 向ヶ丘遊園駅 徒歩0分

